印刷における環境対策

印刷業においては、様々な環境問題への対策が講じられています。まず、従来型のインキに用いられていた石油系溶剤に替わり、一定量の植物性の大豆油を使用する『大豆油インキ』がほぼ一般化してきました。大豆油インキの使用により、石油資源の削減につながるほか、石油系溶剤から発生するVOC(揮発性有機化合物)の削減にも効果を上げることができるようになります。さらに最近では、より環境に配慮した『ノンVOCインキ』も実用化されています。大豆油インキは100%大豆油ではなく、植物性溶剤の比率が20~40%であり、石油系溶剤が10~25%ほど含まれています。これに対して『ノンVOCインキ』とは、鉱物油に含まれる大気中に蒸発する石油系溶剤が1%未満のものを言います。このインキを使うことで、石油系溶剤から発生するVOCの発生をゼロにすることが可能になります。

ただし問題がないわけではありません。現時点ではまだコストが高いため、今後のさらなる改善が望まれています。大豆油インキのように広く利用されるようになれば、環境にやさしいとともに、コストの削減にもつながっていきます。現在、主流であるオフセット印刷は、ほかの方式より環境負荷は少ないですが、それでも課題はあります。その1つが作業者の健康にも影響を与える『湿し水』の問題です。オフセット印刷では水とインキの反発を利用してインキが着かない部分を作り出しており、この水を湿し水といいます。湿し水には有機化合物が含まれており、廃液は水質汚濁防止法で定められたBOD(生物化学的酸素要求量)やCOD(化学的酸素要求量)の基準値を超えているため、産業廃棄物として処理されます。その対策として登場したのが『水なし印刷』です。水なし版を使用した印刷では、湿し水を使用しないので弱酸性の排水を排出しないというメリットがあります。さらに、CTP版の現像には強アルカリ溶液が使用されていますが、水なし版の現像では酸・アルカリ性の現像液が不要なので廃液処理の負担が軽減されます。また、従来の方式と異なり、水なし版では立ち上がりからインキ濃度が安定しており、刷出しの時間や予備紙が半減し、作業時間が短縮される点も利点として挙げられます。

また、印刷工程で発生する化学物質のうち環境保護の観点から最も大きな課題となるのがVOCの削減です。VOCは硫黄酸化物や窒素酸化物などとともに、光化学スモッグの原因にもなっていますので、印刷業でもVOC排出抑制に関する基準を設けて、積極的に取り組んでいます。

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